クラブユース選手権を振り返って

8/2(日)、雨の三ツ沢。アウェー扱いとなったことが2000年の激闘の記憶を呼び起こし、キックオフの時間が近づくとともに気持ちは昂ぶってくる。その一方で、冷静にその時を迎えられそうな、心の落ち着きも感じていた。冬のJユースの経験がそうさせたのかもしれないし、ピッチに表れた選手達の自信に満ちた姿がそうさせてくれたのかもしれない。

第33回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会 決勝。優勝候補筆頭の呼び声が高いFC東京U-18との一戦は、キックオフの時間が刻一刻と迫っていた。

      • -

準決勝は想像を絶する死闘だった。この大会で覚醒した京都U-18のポゼッションにさらされた、前半の45分間。関西プリンスのときは、ボールを「持たせている」という感覚が強かったが、この日は「持たれている」という印象のほうが遥かに強かった。

前半をスコアレスで終わると、この日はスタメンから外されて、後半から投入された豪が大仕事をやってのけた。強烈なプレスでGK大西から京都左SBの国領へのパスをかっさらい、そのまま相手DFを引きずるようにペナルティエリアに侵入。寄せられながらもインステップで放ったシュートは、GK大西の肩口を抜けてゴールネットに吸い込まれる。

畳み掛けるように左サイドを龍が侵入。折り返しのボールをタカがファーへクロスを上げると、豪が相手DFと競りながらヘッドで折り返す。このボールに健勇が反応してこぼれたボールを、最後は野口が左足ボレーで流し込んだ。

しかし、この後は2点差にも意気消沈しなかった京都U-18の猛攻に晒されることになる。ほぼ右サイド角度のないところから放たれた原川のFKが、壁を掠め角度を変えて、ファーサイドのネットに吸い込まれる。そして、ボランチにポジションを移した駒井のドリブルに、隼人と凌輔が振り切られてしまい最後はPKを取られてしまう。これを井上寛太に決められて2-2の同点となったが、ここで崩れなかったことが大きかった。

延長に入ると、健勇がフリーで放ったボレーは相手DFに弾かれ、また京都の枠を捉えたミドルを純が右手一本で辛うじて外に逃れるなど、まさに一進一退の攻防が続く。そして 試合は110分間で決着がつかず、今大会初めてのPK戦へと突入。個人的には、2-2から崩れずに踏ん張り続けたことで、Jユースで残した宿題の半分は達成できたという想いが過ぎった。そして、だからこそ、PK戦を制して、なんとしても決勝へ駒を進めてほしいと願った。

3人目の大輔が外して迎えた京都の5人目。「ここまでか...」という考えも浮かんだが、シュートはバーを越えて枠外へ。しかし、直後の6人目の隼人が外して再び万事休すかとも思われたが、伊藤のPKは純が絶妙な反応でストップ。その後は互いにPKを決め続ける展開。正直心臓に良くない場面が続いたが、佑平や純のPKの上手さには感嘆し思わず頬が緩んでしまう場面も。そして2順目の龍が決めると、最後は純が山下のコースを完璧に読み切ってストップ。純を中心に歓喜が爆発し、決勝への切符を手に入れた。

京都U-18は素晴らしいチームだった。久保、伊藤、山下、駒井の前線4枚はU-18世代最強の攻撃陣といえるだろう。特に、駒井は今大会で最も鮮烈な印象を残した。U-17代表にも確実に呼ばれると思うので、今度は世界を舞台にして大暴れしてほしい。また、決勝にはセレッソが進むことができたが、京都との決着はついていないと個人的には思っている。Jユースの舞台で、完全決着をつける大一番を迎えられることを願っています。

      • -

そして、色々な想いを乗せた90分が始まる。立ち上がりから東京が小気味良いパスワークでセレッソ陣内に攻め込んでくるが、健勇、凌輔を始めとしたディフェンスラインのハードワークで対抗。しかし、右サイドを完全に崩されて、フリーで打たれたシュートがバーを越えた場面は息が止まりそうだった。ひとつ決定的なチャンスを作られたことで、ディフェンスラインはより一層引き締まり、その後は安定したディフェンスを続けることができた。

その後、東京はポゼッションするものの、準決勝の新潟戦で観られたような人数をかけた小気味良いアタックには至らない。一見してセレッソが劣勢ではあったものの、東京の選手達は1対1の局面で食らいつくセレッソのディフェンスに手を焼いているようだった。健勇、凌輔は世代別代表のチカラを見せつける格好となっていたが、それ以上に1年生の佑平と成田のパフォーマンスが素晴らしかった。佑平のメンタルの強さとキャプテンシーは津守U-15の頃から知っていたので大きな驚きではなかったが、東京の攻撃に冷静に対処する姿には頼もしさすら感じられた。そして春から大きく成長した成田。今だから書いてしまうが、関西プリンスの奈良育英戦で観たときは、ちょっと時間がかかるかな?と思ってしまうような内容だった。しかし、Round8のマリノス戦できっちり結果を出してからは、完全にチームの信頼を獲得。決勝の大舞台でも、安心して観ることができた。

また、セレッソのハードワークを、特に東京のエース重松は嫌がっているようだった。これについては色々意見はあるかと思うし、それらを否定する気もありません。しかし、セレッソとしては、それだけ東京の10番をリスペクトしていたということ。また、激しいプレーは数多くあったものの、その中に大怪我を誘発するような、「悪質な」ファールは無かったということは理解してほしいと思います。

ボール支配率では東京も、セレッソのゲームという感覚を持つことができた前半。トップチームはディフェンスに脆さを見せることが多いが、U-18は「我慢較べならどこにも負けない」といえるだけの逞しさが身についている。そしてハーフタイムには心強い援軍が。今回、登録メンバーに入れなかった選手達が到着。大雨とそれに伴う事故渋滞で遅れていたようだが、大事な場面に間に合ってくれた。

中には、今大会のメンバーに入れず悔しい想いの選手もいたと思う。それでも、チームのチカラとなってくれるその姿勢には心からの賛辞と感謝の気持ちを送りたい。セレッソは登録メンバーもそれ以外の選手達も、チカラの差は全くないと言っても過言ではない。高円宮杯では君達が主役になってほしいと思うし、それだけのモノを持っている選手達ばかり。秋にはピッチでその姿がみられるよう頑張って!!

運命の後半。豪に変えてゾノを投入。大一番での「Zono Time」に期待がかかる。そして後半半ばにベンチは勝負をかけて健勇を最前線に上げて、タカ・細見・大輔の3ボランチの4-3-3へと移行し勝負をかける。しかし、ベンチの意図とは裏腹に、前線からのプレッシャーが弱まり、中盤も1人欠けたセレッソに対して、東京の攻撃陣が再び襲い掛かる。

ケンジを投入して健勇と2トップを組むも状況は改善されず、取った策は成田に代えてのナオの投入。健勇とタカのCB、細見と大輔の2ボランチ、そしてナオと隼人の2列目という、今期を通じて最もオーソドックスな4-4-2のスタイルへと回帰。これによって再びバランスを取り戻したセレッソは東京の猛攻を凌ぎ、勝負は延長戦へと持ち越される。

延長戦。セレッソはFKやCKなどのセットプレーからチャンスを伺う。セットでは、タカ、凌輔、大輔とキッカーは充実しており、得点の匂いが漂う。特に、大輔のCKは不思議な魅力を持っている。大輔のキックは大きく曲げるわけでもなく、ストレートに伸びるボールが多い。しかし、GKの届かない場所へと送られ、その多くは決定的な場面を演出。これに加えて、健勇のロングスローも、さほど上背のない東京のディフェンスにとっては脅威となってチャンスを演出していた。

そして運命の延長後半。隼人が右サイドで東京DF2人を置き去りにしてペナエリアに進入するものの、決定的なシュートを放つには至らない。しかし、後に得た右サイド奥からの健勇のロングスローが龍めがけて飛んでいく。龍と東京のDFがヘッドで競りに行くと、東京DFに当たったボールは僕達の眼の前で放物線の軌道を変えて、ゆっくりとGKの頭上を越えていく。ゴールが決まる瞬間のボールの軌跡は、ゆっくりと、そして克明に脳裏へと刻まれていくと同時に、全身から歓喜が沸きあがってくるのが分かった。

そして歓喜が沸点を超えた直後に、藤畑さんの激が飛ぶ。冬にここまでは来た。ここから先が大事だと。ピッチ上の選手達も浮かれてはいない。ベンチに向かって喜びを表現するとすぐに自陣に戻り、東京の最後の攻撃に備えた。

東京の最後の猛攻が始まった。1-0となった後、FKから放たれたボールはゴールバーの下部に当たり、大きく地面を叩いて跳ね返った。雨で眼鏡が濡れてはっきり見えなかったということもあるかもしれない。しかし、それ以上に、純の届かないポイントは枠外だと思えるほど冷静に見ている自分がいた。単なる思い込みかもしれないが、冷静でいられたのは純がこれまでに積み上げた信頼があってこそ。

純は、この日や準決勝で特段当たっていたわけではない。いつも、これぐらいのパフォーマンスは普通にこなしてしまう選手だ。だからこそ僕達は、U-18世代で純を超えるGKは観たことがないと胸を張って言える。今大会のMVPは健勇だった。しかし、健勇には申し訳ないと思いながらも、自分の中でのMVPは間違いなく純だ。

最後はナオに変えて佳介を投入。カウンターやセットプレーから押し込まれ続けたが、最後のところで身体を張って得点を許さない。そして三ツ沢の丘に主審のホイッスルが鳴り響くと、セレッソ大阪にとって悲願のタイトル獲得の瞬間が訪れた。

グループ2戦目で札幌に完敗した時点で、今年のグループ突破は非常に厳しくなったと思ってしまった。そして、圧倒的に押し込まれたヴェルディ戦の前半が終わった時点では、絶対に2点差以上をつけて勝てると心の底から信じるのは容易ではなかった。それでも、僅かな可能性を手繰り寄せてグループリーグを滑り込みで突破すると、トーナメントは全ての試合で延長戦を経て、劇的に勝ち上がってタイトルまで辿り着いた。

Jヴィレッジに行くようになって4年目。毎年、U-18クラ選の日程に合わせて会社の夏休みを取得するようにしてきた。これまでは、三ツ沢では試合の経過を客観的に見守る1人の観客に過ぎなかった。しかし、今年はゴール裏に立ち、優勝が決まって僕達のところに走ってきた選手達は、歓喜とともに僕達にトロフィーと賞状を渡してくれた。「タイトルを勝ち取ったのは俺達(サポーター)じゃないよ!お前達選手だよ!!」と思いながらも、優勝カップを掲げながらみんなで「大阪の街の誇り」を歌うと、込み上げてくる感動が止まらなかった。

僅か9日間の集中開催。最高の記憶とともに、夢のような日々があっという間に過ぎ去った。今朝、10日振りに会社に出社したものの、頭の中はJヴィレッジと三ツ沢で過ごした非日常からはまだ戻り切れずにいる(笑)。しかし、これで全てが終わったわけではない。8月末にはJユース杯が始まり、9月には夏の王者として高円宮杯に挑む。対戦相手からは徹底的にマークされるだろう。ここで満足することなく、更にワンランク成長して、秋の戦いへと挑んでいってほしい。

そして、この大会がセレッソの歴史を変える1ページとなることを願って。将来、君達がトップチームを率いるようになって、「この日があったからJ1リーグタイトルが取れた」と言える日が来ることを信じて...


最高の夏をありがとう!
そして、これからも頑張れ!セレッソ大阪U-18!!