なんとなく流体力学

シーズンも終わったので何か一つ学びなおそうかと思うものの、熱力学・統計力学関連はなんとなく行き詰まり気味。実際は行き詰っているというよりも、線形領域の非平衡現象を歴史的経緯を念頭に置きつつ見直そうという考えと、局所平衡より先を眺めてみたいという(分不相応な)欲求の間で上手くバランスが取れず悶々としている、といったほうが正しいかもしれないが...
そんなわけで、ちょっと視点を変えてみようという思いと、日頃からお世話になっている某池の友人と多少はまともな議論ができるように(?)という考えもあり、神保町で購入した「流体力学」(今井功著、1970)をぼちぼち読み始めることに。
今井先生は大学院のセミナーで一度見たことがあるような気がする(多分Mandelbrotが来た時だったと思う...)のだが、既にお亡くなりになっているとは知らなかった(つい先程ネットで調べて始めて知った)。大学3年の夏休みに、やはり先生の書いた「応用超関数論Ⅰ、Ⅱ」を必死で理解しようとした記憶もあり、分量も手頃だったので、思わず手にとって購入してしまった。
およそ半世紀ほど前に、著者が東大理学部で行った講義をもとに書かれた教科書とのことだが、非常に明快、かつ面白い。個人的にはまともに流体力学を勉強したことは無いのだが、流体現象の捉え方、基礎方程式の導入(連続の式、Eulerの運動方程式、熱力学関係式(大抵はバロトロピー流体として簡素に扱ってしまう))など、初歩的なベクトル解析の知識と直感的な説明を通してほとんど抵抗無く頭に入ってくる。熱力学関係式のところで、第1法則と状態方程式に(直接の)関係は無いよね、とか細かいツッコミも入れられなくも無いが、これほど明快な分野だとは知らなかった、というのが正直な印象。Bernoulliの定理は運動方程式のエネルギー積分で、Helmholtzの渦定理は角運動量保存則の流体系での表現だといった内容も、(よくよく考えれば当たり前のことかもしれないが)簡素な式展開と直感的説明で愉しく学べる。
更に、数学的観点からも、渦無しの系はLaplace方程式の境界値問題として、更に2次元系は複素関数論の生き生きとした応用問題として見ることができる。物理数学を学びながら流体に手をつけなかったのは非常に勿体無かった、自分の在籍していた大学はカリキュラムをもうちょっと真面目に考えろよ、とさえ思ってしまう。
また、(これも当たり前だが)流体系は非平衡系の一表現。個々の粒子の動力学的記述、衝突数算出仮定に基づくBoltzmannの分布関数による記述、更には確率過程による記述と、系の相互作用を規定する時間スケールを変化させていくたびに、同一の自然現象に見られる世界は大きく変化していく。これはすなわち、観測時間を長くするに従って同一の自然現象に階層性を見出すことができるということでもある。流体力学による記述は、これらよりも更に長い長い時間スケールで自然を眺めた際に、我々の眼前に現れる現象であるともいえる。このような階層間の繋がりから想像を膨らませつつ、流体現象に浸るというのも悪くはない。
ところで、現時点では、非圧縮かつ粘性の無い、ある意味理想的な流体現象しか対象としていない。工学的には、粘性抵抗を持ち、Navier-Stokes方程式で記述される系への関心が強いのだろうが、そこまで到達するにはそこそこ時間がかかりそうだ。じわじわ読み進めてはいるものの、まともな議論の相手になれる日は遠い、かもしれない...