育成が描くセレッソの未来

今年もU-18からのトップ昇格が発表された。夛田凌輔と野口直人。夏に昇格が発表された健勇を含めると今年は計3人。黄金世代と言われた螢・マルの代、そしてクラ選を制したタカ・龍の代を越える人数の昇格となった。

凌輔はサザンウェイブ泉州FCからU-18へ加入すると、プリンスリーグを前に1年生にして早々とポジションを奪取。当時の凌輔を初めて観た藤畑さんが予言したように、夏のクラ選で全国的に注目を浴びると一気に世代別代表に定着した。U-17W杯こそ怪我の影響で出場は叶わなかったが、同世代を代表するSBとなった。そしてセレッソではSBに加えてCBとボランチ、また副さんが3バックを採用していた1年の高円宮杯の頃はシャドーの1角を担うなど、豊富な運動量をベースとしたマルチロール性を発揮した。

何より凌輔の魅力は、彼自身のメンタルの強さにあると思う。U-18では、負けん気の強さから試合中に熱くなったり、また敗戦を受けて涙を流すこともあった。しかし、ひとつの試合に、そしてここぞという場面に全力を傾けられるメンタルの強さこそ、彼自身をトップチームへと導いた原動力といえるだろう。トップでも、若くしてプレーでチームを引っ張っていけるような存在となっていくことを期待してしまう。

複数のポジションをこなせる凌輔だが、目先のライバルは両SBの大輔やシャケ、そしてU-18の先輩でありA代表候補でもあるマルあたりになるのだろうか。ルーキーイヤーとはいえACLを含む過密日程となる来季、しっかり準備すれば意外とチャンスは早く回ってくると思う。持ち前のハートの強さを前面に出したプレーで、長居スタジアムキンチョウスタジアムで多くのセレッソファンやサポーターを魅了してほしい。


そして野口は、吹田JFC千里丘からセレッソ大阪U-18に加入。凌輔と同様に複数のポジションをこなせる器用さを武器に、1年の頃から少しずつ出場機会を得るようになる。2年時の中谷セレッソでは、一部の核となる選手を除いて交代枠を最大限に活用し、選手を次々と入れ替えていく展開が多かった。その中でノグはSBやSHとして次第に出場機会を増やしていくと、秋以降はチームに欠かせない存在となっていた。そして3年では左SBを主戦場とし、健勇が抜けた後は凌輔と同様にチームの軸となって活躍した。

正直に告白してしまうと、ノグ昇格の噂を聞いた際は喜びよりも驚きの方が多かった。驚きの理由は、昨年、一昨年と同レベルでトップでも通用しそうな選手達がいたので。守備面で世代屈指の対人能力を持つ選手、運動量が豊富でバイタルエリアを1人でカバーできる選手、更にはスピード溢れる縦への突破力が魅力の選手。個性溢れる彼らの昇格が見送られていたこともあり、SBやボランチ、SHの昇格には、想像以上に高い壁があるようにも感じられていた。それだけに、ノグ昇格の報は驚きをもって受け止めることとなってしまった。

ノグはどちらかというと、彼らのような強烈な個性が前面に出る選手ではないのかもしれない。しかし、当然トップチーム昇格に値するだけの能力を持ち合わせている選手であることは間違いない。今季のU-18では左SBでの出場が多かったが、個人的にノグの主戦場はあくまで中盤、セントラルMFだろう。個人的にそう思わせる理由が、これまでの中央でのプレーの中にあった。最初にノグの能力に惹きつけられたのは、彼が2年生時のプリンスリーグ神戸戦。この年の中谷セレッソは龍やタカ、健勇といった世代別代表の個のチカラを前面に押し出す一方で、リスクを避けてロングボールを多用することの多いチームだった。この試合でも縦に早い段階で放り込む場面が続いていたが、途中交代でノグが入るとサッカーの内容が一変。ノグが最終ラインからボールを引き出し的確に前線へと配給することで、いきなり平面で綺麗に崩すパスサッカーへと変貌。ボールポゼッションを支配して、神戸のDFラインを一方的に崩す展開に衝撃を受けた。結果として敗れてはしまったものの、選手交代が劇的に展開を変えた稀な試合として記憶に残り、個人的にその後はノグのボランチ起用を期待するようになっていた。

しかし凌輔と同様に彼自身のマルチロール性のためか、チーム状態に合わせてSBやSHで使われる場面が多く、ボランチとして出場する試合を観る機会はさほど多くはなかった。3年に上がって大熊監督が指揮するようになってからも左SBが主戦場となっていたため、期待はあったものの正直なところ昇格というイメージを持つことは難しかった。それでも、フロントが昇格を決断した背景には、彼の状況判断の速さや配球センスに対する然るべき評価があったのだろうと思うし、ノグのような選手をきちんと評価したフロントは、率直に良い仕事をしたと思う*1

ノグ本人にとって昇格は目標であったと思うが、その一方で自身の昇格がプレッシャーにも感じられていた時期もあったかもしれない。今更ながらにそう思うのは、夏のクラ選頃から彼の表情から笑顔が少なくなり、自分を追い込んでいるようにも感じられたので。それでも新シーズンが始まればトップで戦うということ、セレッソのエンブレムを胸に戦うことがノグ本人にとって大きな喜びとなり、そしてゆくゆくはセレッソの新しい歴史を作っていく選手に成長していくと確信している。近年の昇格メンバーと較べると派手さは無いかもしれないが、オシムが言うところの「水を運ぶ選手」となり得る存在だと思う。これまでの昇格メンバーとは異なる個性を、JリーグそしてACLのピッチで観ることができる日を楽しみにしています。


昇格おめでとう!

そしてセレッソの誇りを胸にトップチームでも頑張れ!凌輔!!ノグ!!

*1:以前にも少しだけ触れたが、身体的な能力の高い選手は誰にでも分かり易く評価される一方で、状況判断のセンス(すなわちサッカーセンス)の良い選手は正当に評価されていないと感じていただけに、ノグ昇格の報は率直に嬉しかった...