貴重な経験

朝起きると広島市街は一面真っ白。バスがチェーンをつけて走っている。ここ数年感じたことの無いような寒気。高速道は全ての路線でほぼ全滅。帰りの飛行機が飛ぶか以前に、空港まで行く方法すら定かでない状況。
アストラムライン広域公園前着。ビッグアーチまでの道は一面の雪。歩道の積雪は20センチに至るかという感じで、とても歩ける状態ではない。何とかスタジアムに到着すると、選手・コーチを含めた試合関係者が皆でピッチ上の雪を掻き出している。
太陽が出ると、ビッグアーチの屋根に積もった雪が溶けていっせいに滑り落ち、「ドーン」という轟音が響き渡る。結局、試合は一時間半遅れで12:30キックオフとなった。
立ち上がり、ほぼ互角の展開もややセレッソがボールを支配気味に試合を進める。しかし、最後のところで突破を許してくれず、PA付近ではね返され、時折危険なカウンターを受けるという展開に。これまでは苦しんだとしても試合自体は支配し続けてきたが、さすがにここまで来ると格下という感じの相手では全くない。
先制したのは広島。セレッソ自陣でのリスタートからの横パスをカットされ、そのままGKと1対1。これをきっちり決められる。正直勿体無い失点。しかし、ここで下を向いても仕方がない。失敗を積み重ねるのも経験、失敗したあと精神的に持ち直すのも貴重な経験。課題として捉え、一つ一つ乗り越えていくことでより大きく成長できるのだから。
追加点も広島。中央をワン・ツーで綺麗に突破され、PA外から綺麗に決められた。正直、相手を褒めるしかない素晴らしいゴール。
前半終了時点で0−2。苦しい展開で後半を迎えることに。
後半、ベンチは流れを変えるべく開始からFW永井を投入。そして永井がすぐに結果を出す。左サイドからアーリー気味に上げられたクロスを、相手DF2人に寄せられながらも綺麗に頭で合わせる。
1−2。
永井はまだ2年。フィジカルで圧倒的に劣っているはずなのに、どうして綺麗に合わせることができるのだろう?正直、嬉しさよりも驚きの方が強いゴールだった。
後半開始間もない時間で1点差に迫り、チームに元気が戻る。そして再び前半立ち上がりのような互角の攻防が続く。
しかし追加点は広島。相手のドリブル突破に対し外へ逃がすよう対応するも、一瞬で入れ代わられ、角度の無いところから決められてしまった。この一点はチームに重く圧し掛かる。
この日の広島はリードを広げても決して隙を見せない強いチームだった。終始、「集中!」「絶対切らすな!」と互いに声を掛け続け、チームとして「切れる」時間がほとんど無かった。「ああ。広島、強いな」そう感じさせられてしまうチームだった。
それでも、セレッソの選手達も決して下を向かず、最後まで戦い抜こうという意志と姿勢を感じさせてくれた。1−5で迎えた後半終了間際、丸橋のCKを蛍がヘッドで合わせて1点を返す。「諦めないんだ」という姿勢が最後に形になったゴール。試合結果に大勢は与えなくても、彼らの成長のためには貴重な一点だったと思う。
そして2−5で試合終了。3年生にとってはセレッソ大阪U-15での最後の公式戦となってしまった...
試合後、選手には「お疲れ様」「また、やろうな」と声をかけた。3年生が全員U-18に上がれるわけではないことは知っている。この試合を最後に、いったんセレッソと別れを告げる子達もいる。それでも、いつの日か、もっと成長した彼らと、一緒に戦える日が来るのを楽しみに待っている。
そして、U-18に上がる子達はこの経験を次に活かそう。そしてみんなで全国を獲ろう。
選手バスが出発する前、風巻監督がバスを出て僕たちに挨拶をしてくださった。素晴らしいチームと選手を育てられたことに本当に感謝しています。サポートする立場にいながら、若い選手たちの直向なプレーに、逆にこちらが勇気付けられることも多かったように思います。これからも、素晴らしい選手の育成をよろしくお願いします。
バスが出発する際、何人かの選手たちは、寒いのに窓を開けて僕らの声に耳を傾けてくれた。永井は、バスが去るまで窓から顔を出して僕らの方を見ていた。君たちも、紛れも無くセレッソ大阪の一員。セレッソのエンブレムを胸に戦う僕たちの誇り。
この一年間、本当に、お疲れさまでした。